Legal Column
リーガル・コラム

相続法

相続法改正について

今回の相続法の改正では,従来なかった規定がいくつか新設されましたが,従来の実務での運用と異なる結論になる規定も盛り込まれました。その中でも重要なものの一つが,共同相続における権利の承継に関する規定です。これは,遺言により法定相続分を超える権利を取得することになる相続人にとって注意が必要な規定です。

相続人が法定相続分を超える土地を取得した場合,今回の改正相続法施工前の実務(判例)では,相続人が協議して遺産の分け方を決める遺産分割により取得した場合は,登記をしなければ法定相続分を超える部分については第三者に対抗できないとされていましたが,反面,「相続させる」旨の遺言により取得した場合は,登記をしなくても法定相続分を超える部分も含めて第三者に対抗できるとされていました。しかし,今回の改正で,遺産分割の場合のみならず,遺言による場合も,登記を備えなければ,法定相続分を超える部分についての権利を第三者に対抗できなくなったのです。
具体的な場面でお話ししますと,例えば,遺言により法定相続分に満たない不動産しか取得できなかった他の相続人が,自分の法定相続分全部を第三者に売却してしまった場合,法定相続分を超える不動産を取得した相続人は,改正法施行前は,取得した不動産全部についての権利を,登記なくして第三者に主張できるとされていましたが,改正法施行後は,法定相続分を超える部分については,登記をしなければ第三者に対抗できなくなりました。
また,法定相続分に満たない不動産しか取得できなかった相続人が債務を負っていた場合,その債権者に,当該相続人の法定相続分の不動産を差押えられれば,遺言により法定相続分を超える不動産を取得した他の相続人は,登記をしていなければ差押えに対抗できなくなりました。

今回ご紹介した権利承継の対抗要件の規定は,他の多くの改正相続法の規定同様,昨年7月1日から施行されていますので(今年の4月1日から施工される配偶者居住権に関する規定等,他の時期に施行される規定もいくつかあります。),昨年7月1日以降に発生した相続については,法定相続分を超えて取得した不動産の名義変更を早急に行った方が安全です。改正法施行前に作成された遺言による相続であっても,改正法施行後に発生した相続については同様です。

以上,対抗要件主義導入に関するお話しでしたが,今回の改正では,この他にも,配偶者居住権や特別の寄与の制度(相続人以外の親族の貢献を考慮する制度)などの新設,遺言制度や遺留分制度などの見直し等,大掛かりな変革が行われています。